不動産業界における人手不足の現状
不動産業界は、慢性的に人手不足です。具体的には、入職者よりも離職者が多い現状や、競合の増加にともなう人材の争奪戦などが課題としてあります。どういう状態なのか、不動産業界全体の現状について把握しておきましょう。
入職者よりも離職者が多い
不動産業界では、入職者よりも離職者が多い現状にあります。厚生労働省によると、2023年の不動産業・物品賃貸業のパートタイムを除く一般労働者の入職者は83,100人であるのに対し、離職者は91,000人に上るという結果でした。
出典:厚生労働省「令和5年 雇用動向調査結果の概要『産業別の入職と離職』」
さらに、超高齢社会の進行にともない発生する「2025年問題」も、大きな懸念点といえるでしょう。2025年問題とは、団塊の世代(日本でもっとも人口が多い世代)が75歳以上になることで生じる一連の問題のことです。社員が定年を迎えて退職者が増えれば、人手不足に拍車がかかります。
競合が増え、限られた人材の争奪戦になっている
不動産業界では、「2025年問題」にともなう労働力不足に加え、同業他社の増加が人手不足を加速させています。不動産業は、開業資金が比較的少なくて済み不動産情報の入手も簡単であるため、新規参入のハードルが低く法人数が増加傾向にあるからです。
限られた人材を奪い合わざるを得ない状況下では、離職防止の施策を充実させ、今いる社員の定着を図るとともに、採用方法の見直しが欠かせません。
不動産業界における人手不足の背景
不動産業界において入職者が増えない背景には、不動産業界特有の課題があります。4つの視点からみていきましょう。
不動産業界の法人数が増えている
先述の通り、不動産業の法人数が増え続けていることも人手不足の一因です。公益財団法人不動産流通推進センターによると、不動産業を営む法人数は、2003年度以降2022年に至るまでずっと増加傾向にあります。なお、2022年における不動産業の法人数は378,460で、前年と比べると2.7%増加しています。
出典:公益財団法人 不動産流通推進センター「2024不動産業統計集」
不動産業界への入職者が限られている一方、法人数の増加にともない人材の需要は増え続けている結果、人手不足はますます深刻化しているのが不動産業界の現状です。
「残業が多くキツイ」というイメージが根強い
不動産業界の業務には、残業が多く仕事が過酷といった厳しいイメージが根強く残っており、求職者が求人に応募するハードルを上げてしまっています。
特に不動産の営業職は、ノルマや時間の制約などによる負担の大きい仕事だというのが、一般的なイメージです。高額商品を取り扱う分、インセンティブは高額である反面、契約の難易度が高いことも大変そうなイメージを持たれる理由です。
また、不動産仲介では物件に関する法令や専門用語などの知識を求められることも、他業界からの転職ハードルの高さにつながっています。
採用条件が求職者のニーズとマッチしない
応募の必須条件に休日出勤への対応や普通自動車免許の取得などが並ぶと、求職者が遠ざかりがちです。近年では、社会全体でワークライフバランスを重視する考えが共有されており、勤務時間に柔軟性がないと敬遠される傾向にあるからです。
また近年では、普通自動車免許を取得していないケースや、持っていてもペーパードライバーという場合も多く、採用の必須条件にすると応募のハードルを上げてしまいます。
必須とする採用条件は最低限に留めるよう職種ごとの条件を整理するとともに、労働環境の見直しに取り組むことで、求職者を呼び込みやすくなるでしょう。
IT化が進んでいない
IT化が進んでいない職場では、社員の定着率が低下しやすいため注意が必要です。不動産業では、帳票・日報・物件に関する資料など膨大な書類を扱います。そのため、手書き・手入力が当たり前のアナログな業務環境では、処理が煩雑になり残業が増えて負担が過度に重くなる傾向にあります。
IT化を進めて働き方改革を推進すれば、離職の防止ができるだけでなく、他社との差別化にもつながり応募数の増加も期待できます。
不動産業界が人手不足を解消する方法
人手不足の課題解消のために効果的な戦略を4つ紹介します。
働き方改革を推進し採用条件を見直す
働き方改革の推進と採用条件の見直しは、既存の社員の定着率アップと、求職者の応募数増加のどちらにも効果的な戦略です。特に勤務時間・給与水準・福利厚生は社員の生活に影響の大きい条件なので、優先的に見直しを進めましょう。
具体的には、営業職の給与において歩合支給の割合が多くなっている場合や、残業・休日出勤が採用の必須条件にしてあるケースでは、求職者から敬遠されやすくなります。一方、柔軟に勤務しやすく社員のワークライフバランスを意識した労働環境であれば、優秀な人材が集まりやすくなり、社員全体のモチベーションアップも期待できます。
DX化に取り組む
IT技術を導入しDX化に取り組むと、手作業で行っていた業務を一定程度自動化できます。業務効率化、コスト削減、お客さま満足度の向上を図ることができ、人手不足解消にも効果的です。
DX化に役立つシステムの代表例として、電子契約システム・Web接客システム・チャットツール・不動産管理システムの4つがあげられます。業務環境やDX推進の目的に応じたツールの導入を検討しましょう。
中でも、登記情報取得業務に特化した不動産管理システムなら、ホームズの「オンライン登記情報システム」をおすすめします。10秒で40筆、1日で最大15万筆と、大量の登記情報を素早く取得できるのが特徴です。また、取得と同時にAIが自動解析し、CSVやExcelへデータ化するため、手入力によるヒューマンエラーを防げます。
関連記事:「不動産会社のDXとは?DX推進のメリットと留意点を紹介」
アウトソーシングも併用する
定型的な業務を切り分けてアウトソーシングを活用すれば、採用活動の負担をかけずに人手不足を解消できます。一例として、事務作業はフリーランスに委託し、自社の社員はコア業務に専念するといった業務分担であれば、無理なく人手不足を補えるでしょう。
ただし、ノウハウや経験則、データなどの蓄積が必要な業務をアウトソーシングする場合は、後から自社でも運用できるような仕組みづくりが必要です。こまめにコミュニケーションを取り、進捗や業務内容を把握しましょう。
社員のキャリアアップを支援する
宅地建物取引・賃貸不動産経営管理士などの資格取得支援制度を設けたり、研修制度の充実を図ったりすることも有効です。社員のキャリアアップをサポートする体制が充実していると、既存の社員のモチベーションを高め、定着率アップや業務処理能力の向上が期待できます。
資格取得の支援やメンター制度などが充実していると、採用時にも求職者に安心感を与え、応募のハードルを下げることが可能です。業界未経験の転職希望者などへのアピールポイントとしても使えます。
まとめ
入職者を離職者が上回る現状に加え、競合する法人数の増加も相まって、不動産業界の人手不足は深刻化しています。ただし、人手不足の背景にある課題を踏まえて対策を講じることで、問題の解消に近づけます。
採用条件の見直しや働き方改革、DX推進、アウトソーシングなど複数の対策があるため、必要に応じて併用すると良いでしょう。特にITの導入は、大幅な業務効率化に加え、データの有効活用による生産性向上効果なども期待できます。この機会に、業務環境の改善を検討してみましょう。
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