不動産取引における電子契約とは
ここでは、不動産取引における電子契約の概要や、解禁された背景を解説します。
そもそも電子契約とは
電子契約とは、紙で作成・締結していた契約書をデジタル化し、システム上で完結させる仕組みのことです。電子契約では、紙の代わりにデジタルデータを使用し、法的効力は紙の契約書と変わりません。
紙の契約書では、当事者が合意したことを示すために直接署名したり印鑑を押したりしていましたが、電子契約の場合は「電子署名」というデジタル技術が同じ役割を果たします。
電子署名の技術によって、署名した人の身元を確実に特定するとともに、契約内容が改ざんされていないかも証明可能です。
これにより、場所や時間に縛られず契約手続きができ、印鑑の紛失や偽造のリスクも軽減されます。
さまざまな業界で導入が進んでいる電子契約は、法的な制約により不動産業界では難しいといわれていました。しかし、次項で述べる法改正によって不動産取引における契約の電子化が実現しました。
不動産取引の電子契約はいつ解禁されたか
不動産取引の電子契約は、2022年5月に全面解禁されました。
それまでは、不動産取引に関する重要書類は紙面での交付が法律で義務付けられていたため、完全な電子契約化は不可能でした。長年の課題だった法的制約は、デジタル改革関連法の一環として宅地建物取引業法(宅建業法)が改正されたことで解消されました。
この法改正では、重要事項説明書や売買契約書・媒介契約書など、これまで書面での作成・交付が必須とされていた書類をデジタルデータでやり取りすることが認められました。
これにより、契約書の作成から署名・捺印・交付までの一連のプロセスがオンライン上で完結できるようになり、非対面での契約が可能になりました。
出典:国土交通省「不動産取引時の書面が電子書面で提供できるようになります。~宅地建物取引業法施行規則の一部改正等を行いました~」
不動産取引を電子契約化するメリット
不動産取引を電子契約化することは、紙ベースの契約方法と比較してさまざまなメリットがあります。
メリット1|業務効率化&コストカットにつながる
不動産取引の電子契約化は、業務効率化とコストの両面でメリットがあります。
オンラインで契約を結ぶことで、場所の制約がなくなり、お客さまとの日程調整もしやすく、契約プロセス全体を迅速に進めることが可能です。
また、書類の準備・印刷・郵送・保管といった手間や時間が減り、契約書の印刷や製本・郵送にかかる費用や人件費も必要なくなります。特に、売買契約のように高額な取引では、数万円~数十万円にもなる印紙税が不要になるため、大幅なコスト削減につながります。
メリット2|ペーパーレス化を推進できる
電子契約の導入は、不動産業界におけるペーパーレス化を大きく前進させます。
契約書を電子データとして保管することで、保管場所が不要となり、オフィス空間の有効活用が可能です。また、書類の検索や管理が容易になり、必要な情報を素早く取り出せるため、業務の効率化も加速させます。
さらに、ペーパーレス化は紙の消費量を減らすことで環境保護にも貢献し、企業の社会的責任(CSR)を果たす上で重要な要素になります。
メリット3|働き方改革に直結する
不動産取引に電子契約を導入することは、不動産業界における働き方改革に大きな効果を発揮します。
契約プロセスがオンラインで完結するため、業務上のやり取りがシンプルになり、従業員が場所や時間に縛られずに働けるようになるからです。例えば、テレワークや在宅勤務といった柔軟な働き方にも対応でき、従業員のワークライフバランス改善が見込めます。
メリット4|消費者のニーズに応えられる
不動産取引を電子契約化することは、消費者のニーズに応えることにもつながります。
特にコロナ禍以降、対面での接触を減らしたいという意識が高まり、不動産取引においてもオンライン完結型のサービスへの期待が急速に拡大しています。
電子契約を導入することで、遠方に住む方や日中時間が取りにくい方も、場所や時間を気にせずに契約手続きを進められるようになるわけです。そのため、お客さまの層の広がりや、お客さま満足度の向上も期待できるでしょう。
不動産取引で電子契約可能な書類
ここでは、宅地建物取引業法で作成・交付が定められており、電子契約可能な書類を3つ解説します。
出典:e-Gov 法令検索「宅地建物取引業法」
媒介契約書
媒介契約書は、不動産会社が売主や買主と結ぶ契約で、仲介業務の範囲や報酬条件を明確にする契約書類です。
売主または買主と不動産会社との間で交わされるこの契約書は、宅地建物取引業法第34条の2によって作成・交付が義務付けられています。
媒介契約書には、主に下記の3種類があります。
種類 | 概要 |
一般媒介契約 | ・売主が複数の不動産会社に仲介を依頼できる
・レインズ(指定流通機構)への物件情報登録義務がない |
専任媒介契約 | ・売主が1社に仲介を依頼する
・売主の自己発見取引(契約期間内に自ら取引すること)が可能 ・契約締結から7日以内にレインズに物件情報を登録しなければならない |
専属専任媒介契約 | ・売主が1社に仲介を一任する
・売主の自己発見取引が不可能 ・契約締結から5日以内にレインズに物件情報を登録しなければならない |
契約書には、売主と不動産会社の権利義務関係・報酬・契約期間などが明記されます。
重要事項説明書
重要事項説明書は、不動産の売買や賃貸借契約の締結前に、物件に関する重要な情報を説明するための法定書面です。
重要事項の説明は、宅地建物取引業法第35条により、必ず宅地建物取引士が口頭で行い、書面に記名・押印することが義務付けられています。
この書類には、物件の権利関係・法令上の制限・取引条件など、契約判断に影響を与える可能性のある情報が記載されます。
売買・交換・賃貸契約締結時の交付書面
売買・交換・賃貸契約締結時の交付書面は、宅地建物取引業法第37条に基づいて不動産会社が売主・買主・借主に対して発行される契約書です。
この書類は「37条書面」とも呼ばれ、契約の内容を明確にし、後のトラブル防止に重要な役割を果たします。
書面には、契約の当事者・物件の所在地や面積・取引条件・代金の額や支払方法・引渡し時期など、契約に関する重要事項が記載されています。
【6ステップ】不動産取引における電子契約の手順
ここでは、不動産取引における電子契約の手順を6つのステップに分けて解説します。
ステップ1|契約書類をアップロードする
不動産取引に関わる契約書類(重要事項説明書・売買契約書・賃貸借契約書など)を電子契約サービスにアップロードします。
アップロードする際は、PDFなどの改ざん防止機能を持つファイル形式を使用し、書類の真正性を確保することが重要です。
また、電子帳簿保存法の要件を満たし、文書の真正性を確保するために、タイムスタンプの付与が必須となります。
ステップ2|不動産業者が契約書類に電子署名をする
契約書類がアップロードされたら、次に不動産業者が書類に電子署名を行います。
電子署名は、その文書が正当なものであると保証し、契約者の身元確認と文書の改ざんを防ぐために必要な手続きです。電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)に基づき、マイナンバーカードなどの電子証明書や、電子契約サービスが提供する署名機能を利用することで、契約書の信頼性を高めることができます。
出典:e-Gov 法令検索「電子署名及び認証業務に関する法律」
ステップ3|IT重説の事前承諾を得る
重要事項説明をオンラインで実施する「IT重説」を行うには、事前に相手方(買主・借主)から承諾を得る必要があります。
承諾は、電子署名を用いた同意書の送受信や、同意内容を記載したメールへの返信など、証拠が残る形で行わなければなりません。また、事前に承諾を得ることで契約の透明性を確保し、後々のトラブル防止にも役立ちます。
ステップ4|重要事項説明を実施する
IT重説への同意が得られたら、次はオンライン上での重要事項説明です。
事前に重要事項説明書を買主に送付し、Web会議システムなどを活用して説明を行います。ただし、相手方がオンラインでの対応が可能か確認し、資料を事前に送付するなど、準備を怠らないことが重要です。
なお、IT重説時は下記に留意しましょう。
・承諾後も書面変更が可能な旨を伝える
・カメラに宅地建物取引士証をしっかり映す
・送付した重要事項説明書の内容に改変がないか確認する
そのほか、IT重説における実務の詳細は、国土交通省が発行している下記も参照してください。
出典:
国土交通省「重要事項説明書等の電磁的方法による提供 及びITを活用した重要事項説明 実施マニュアル」
国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」
ステップ5|電子契約を結ぶ
重要事項説明が終わり、契約内容で合意に至れば、電子契約サービスを通じて契約を締結します。
専用の電子契約サービスを利用し、売主(貸主)・買主(借主)・仲介業者がオンライン上で契約を締結します。非対面の契約であるため、セキュリティ対策の徹底が求められます。
ステップ6|契約書類を交付する
最後のステップとして、契約書類の交付を行います。
双方の電子署名が完了した契約書類は、各契約当事者へ電磁的方法で交付されます。契約書類の受け渡しには、電子メール・Webサイトからのダウンロード・USBメモリなどが利用可能です。
また、受け渡す契約書類は改ざん防止対策が施され、関係者がすぐに閲覧・保存できる形式にする必要があります。
まとめ
電子契約を導入することで、不動産取引における業務効率化やコスト削減・ペーパーレス化など大きなメリットがあります。DX化は不動産業界でも今後ますます推進される見通しです。法改正や技術・サービスの動向について常にフォローしておくようにしましょう。
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そのほか、不動産会社におけるDXについては、こちらの記事も参考にしてください。
「不動産会社のDXとは?DX推進のメリットと留意点を紹介」