不動産広告を規制する法律
不動産広告を規制する法律の代表例が、「宅地建物取引業法」と「不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)」です。それぞれ、どのような法律で、規制内容や違反時の罰則はどうなっているのかについて、ポイントを確認しておきましょう。
宅地建物取引業法
宅地建物取引業法(宅建業法)は、宅地や建物の公正な取引や購入する側の利益保護、スムーズな流通の実現などを目的とした法律です。宅地建物取引業を営む者と事業に関する規制などを定めています。
不動産広告に関する規制は、主に、広告開始時期の制限・取引態様の明示義務・誇大広告の禁止の3つです。各規制内容について、詳しくは章を改めて説明します。
規制に違反すると、指示処分・業務停止処分の対象になったり刑事罰を科せられたりすることもあるため、注意が必要です。
出典:e-gov「宅地建物取引業法」
不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)
不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)は、実物よりよく見せる表示や判断を誤らせるような過剰な景品などを規制し、一般消費者の利益を保護することを目的とした法律です。業種を問わず、広告についての規制を定めています。
規制に違反すると、行政指導の対象になる、課徴金を科せられる、といった罰則があります。不動産業界では、この規制を具体化した「不動産の公正競争規約」を自主的に定めているため、内容を把握しておきましょう。
不動産の公正競争規約とは
不動産の公正競争規約は、不動産業界で定めた自主規制ルールで、全国9地区の不動産公正取引協議会が運⽤しています。景品表示法などについて、用語や不動産広告で守るべき内容を具体化したものです。広告表現の規制のほか、特定用語や二重価格表示などに関する規定が示されています。それぞれの詳細は後述します。
規制に違反すると、不動産公正取引協議会から警告を受け、初回は50万円以下、2回目以降は500万円以下の違約金が発生します。加えて、違反事業者名が公表されたり、ポータルサイト掲載停止などの措置を受けたりする場合があります。
出典:e-gov「不当景品類及び不当表示防止法」
首都圏不動産公正取引協議会「不動産の公正競争規約」
不動産広告における基本ルール
不動産広告の規制に関係する法律が把握できたところで、基本的なルールにはどのようなものがあるのかを確認しておきましょう。
ルール1|誇大広告の禁止
誇大広告とは、実際の状況と比べて、明確に食い違う表示・はるかによい条件であると勘違いさせる表示などを含む広告のことです。客観的根拠のないまま、「日当たり抜群」「公園すぐ」といった表現が含まれていても、誇大広告に当たります。また、公共の交通機関の利便性に触れる場合は、「〇〇駅から徒歩5分」など最寄りの駅からの時間の表示が必要です。
広告に掲載する物件情報は現実に即した正確な内容を記載し、プラスの評価につながる情報については、必ず客観的な根拠とセットで載せるようにしましょう。
ルール2|広告開始時期の制限
造成が完了する前の宅地と工事が完了する前の建物については、広告を開始する時期について制限があります。これは、不確定な段階で購入する側にとって、不利な広告が出回らないようにする趣旨の規制です。
具体的には、造成完了前の宅地は、開発行為の許可を得た後でしか広告の出稿ができません。また、工事完了前の建物は、建築確認許可が下りてから出稿することが必要です。許可を得る前に出稿すると違法になるため、注意しましょう。
ルール3|取引態様の明示
不動産取引では、広告を出す側が売主とは限りません。代理の場合や仲介をしているケースもあります。そこで、不動産広告には、「売主」「代理」「媒介(仲介)」の取引態様のいずれなのかを明示するよう定められています。
取引態様 | 概要 |
売主 | 自らが所有する物件を取引する |
代理 | 第三者が所有する物件を代理で取引する |
媒介 | 売主と買主の取引を仲介する |
あわせて、宅建業免許番号の表示も必要です。また、インターネット広告の場合は、商号・広告主の事務所所在地も必ず表示しましょう。
ルール4|広告表現の規制
不動産広告に載せる情報には、表示基準が決められている項目や、表示が義務付けられている項目があります。
表示の基準が決まっている項目の代表例は、交通アクセス・物件の所在地・面積・写真・絵図などです。例えば交通アクセスの場合、「駅から徒歩◯分」などと表示する場合の徒歩1分は、約80mを基準にするよう決まりがあります。
また、周辺環境や施設情報など物件の取引を検討する際に重要なポイントである情報は、表示が義務付けられています。
ルール5|特定用語等の使用基準
特定の用語については、使用するにあたって基準がある場合や、使用そのものが禁止されている場合があります。
使用基準がある用語は、「LDK」や「DK」など下記の通りです。
用語 | 使用基準 |
LDK | 居間・食堂・台所の機能を兼ね備える部屋 |
DK | 食堂・台所の機能を兼ね備える部屋 |
新発売 | 新たに造成した宅地や新築の建物のうち、購入の勧誘が初めての物件 |
新築 | 建築して1年以内かつ誰も入居したことがない物件 |
合理的な根拠がない限り原則として使用が禁じられている用語の一例として、「最高」「破格」「業界一」「絶対」「完売」などがあげられます。
ルール6|二重価格表示
「4,000万円が今だけ3,500万円」など、実際に販売する価格に加えて、より高い比較価格を記載する二重価格表示は、不動産広告では原則禁じられています。
ただし、下記の要件を満たす値下げ価格の場合は、例外的に二重価格表示が認められます。
・比較価格の公表日と値下げ日が明記されている
・比較価格は、値下げ直前の価格
・比較価格は、値下げ前に2か月以上販売価格として公表していた
・値下げしてから6か月以内
・賃貸物件以外の土地や建物について表示
・値下げの前後で物件の価値が変わっていない
不動産広告作成時の注意点
不動産広告の基本ルールに違反しないためには、作成時に意識したい注意点があります。まず、媒介契約や売主代理で広告を出稿する場合、下記の相手に承認をもらいましょう。
・媒介契約を締結しているのが自社:売主
・媒介契約を締結しているのが他社:媒介契約をしている不動産会社
・他社が売主や売主代理になっている:売主代理になっている不動産会社
また、広告の掲載中に表示内容が古くなり現状と食い違うと、意図せずルール違反になってしまいます。こまめに情報を確認しておきましょう。
さらに、「破格」「業界一」など見逃しやすい些細な言い回しが禁止されているので、ツールによるチェックやダブルチェックをしておくと安心です。
不動産広告における違反事例
不動産広告のよくある違反事例を把握しておけば、うっかりルール違反を見逃すリスクを抑えられます。ここでは、「必要事項が未記載」と「契約済み物件を掲載」の2つの事例について、概要を確認しておきましょう。
事例1|実際の契約条件と異なる内容を掲載
広告に表示された内容と実際の契約条件が異なっていた事例です。具体的には、契約時に提示された家賃が、広告に表示されていた家賃よりも1万円高くなっていました。
広告に記載された内容で実際に取引を行う意思がない物件は「おとり広告」とみなされます。おとり広告とは、実際には提供されない商品や条件を掲載することで消費者を誘引し、取引に導こうとする不正な広告手法です。この事例では、広告に記載された金額での取引を行う意図がなかったため、厳重な警告とともに違約金の支払いが命じられました。
不動産広告においては、表示内容と実際の取引条件を一致させることが不可欠です。正しい内容を掲載するほか、万が一表示内容に誤りがあった場合には、速やかに訂正しましょう。
事例2|契約済み物件を掲載
すでに契約が成立した物件を削除しないまま不動産ポータルサイトに掲載し続けていた、というのもよくある事例です。実際にあった事例では、契約締結後、長いもので3か月以上もサイトに掲載したままになっていました。
契約締結済みの物件の広告が、そのまま問い合わせ可能な状態で放置されると、「おとり広告」と同じ悪影響をお客さまに対して与えてしまいます。そのため、不注意による削除忘れであっても、「おとり広告」を掲載したときと同様に厳重警告や違約金の対象とされるため、注意が必要です。
チェックリストを作成するなどして、契約が締結したら、あわせて不動産ポータルサイトの情報の削除を業務フローに組み込みましょう。
まとめ
不動産広告には、宅地建物取引業法や不当景品類及び不当表示防止法などに基づく規制があります。誇大広告の禁止や、用語の使い方の決まりなど細かいルールも多いので、違反していないか、チェックを徹底しましょう。
なお、不動産会社が広告を出すときに成果を上げるためのポイントを下記の記事で解説しているので、あわせてご覧ください。